甲状腺癌の手術は、癌の進行の度合いに応じて、甲状腺の切除範囲や頚部のリンパ節を切除する範囲を決定します。
甲状腺の切除範囲は下記の通りです。
バセドウ病の手術に関しては、かつては「亜全摘」が行われていましたが、再発するケースが少なくないため、現在では「全摘」が主流になっています。
手術は1~2時間で、入院期間は1週間程度です。
全摘術を行うと、生涯にわたり甲状腺ホルモン薬を服用し続ける必要があります。
葉切除術の場合は、一部の人で手術後に甲状腺機能低下症となり、甲状腺ホルモン薬を服用することになります。
手術の主な合併症
甲状腺癌やバセドウ病の手術では、以下のような合併症を起こすことがあります。
切除する範囲が大きいほど、合併症のリスクが高くなります。
手術後の出血
甲状腺には血管が多く通っているため、手術後に出血することがあり、多くは手術翌朝までに発生します。
放置すると、首の中で血液がたまって気管を圧迫し、窒息をきたすおそれがあるので、出血を止めるための再手術(再開創止血術)が必要になります。
発声障害(反回神経麻痺、上喉頭神経外枝の損傷)
反回神経は、甲状腺のすぐ裏側に左右1本ずつ通っていて、声帯を動かす働きがあります。
手術の操作でどちらか1本を傷めてしまうと、声帯が動かなくなり、声がかすれるなどの症状が現れますが、ほとんどは一時的で、3~6か月以内に回復します。
ただし、2本とも傷めてしまうと、声帯が閉じて息ができなくなるため、気管を切開して空気の通り道を確保する必要があります。
癌が反回神経に食い込んでいると、神経を切断せざるを得ないことがあり、その場合は切断した神経を再建します。
上喉頭神経外枝が傷つくと、高い声や強い声が出せなくなることがあります。
低カルシウム血症(副甲状腺機能低下症)
甲状腺の裏側には、副甲状腺という米粒ほどの小さな臓器が左右2つずつあり、血液中のカルシウム濃度を調整しています。
甲状腺全摘の際、副甲状腺も一緒にとれてしまったり、副甲状腺の血流が悪くなるなどして、4つある副甲状腺の働きが全て低下してしまうと、血液中のカルシウム濃度が低下し、手指や口の周りがしびれるようになり、次第に両手がつって固まります。
この状態をテタニー発作と呼び、バセドウ病では手術翌日の朝から、甲状腺癌では術後2~3日経過してから起こりやすいです。
さらに重症になると、全身にしびれが広がり、けいれんを起こすようになります。
手術翌朝の血液検査で副甲状腺機能低下症を認めれば、カルシウム製剤とビタミンD製剤の服用を始めます。
テタニー症状が出現したときには、カルシウム製剤の点滴を行います。
手術後の副甲状腺機能低下症の多くは一時的であり、次第に副甲状腺の機能が回復して、カルシウム製剤とビタミンD製剤の服用を止めることができますが、副甲状腺の機能が回復しない場合はずっと服用を続ける必要があります。
リンパ液の漏れ(リンパ漏、乳糜漏[にゅうびろう])
頚部の血管付近には太いリンパ管があり、リンパ節を広範囲に切除した場合にリンパ管を傷つけると、術後にリンパ液の漏れを起こします。
乳糜(にゅうび)とは、小腸で吸収された脂肪が溶け込んで乳白色になったリンパ液のことで、手術後に食事を始めると、創部に留置しているドレーンという管から乳糜が出てきます。
少量であれば、しばらく絶食すると漏れは治まりますが、多量に出てくる場合は、再手術をして漏れている箇所を閉じる必要があります。