穿刺吸引細胞診とは、注射針を腫瘍に刺して腫瘍細胞を採取し、顕微鏡で良性か悪性かを調べる検査です。
検査の手順
ベッドに仰向けになるか、バーバーチェア(理容椅子)に座って首を伸ばしていただいたうえで、超音波検査装置で腫瘍の位置を確認しながら、針を刺して細胞を採取します。
検査に使用する針は、採血に使われる針と同じ太さの針を用います。
針を刺す時の痛みは、腕からの採血とほとんど同じで、麻酔の必要はありません。
1つの腫瘍に対し1~2回針を刺し、1回あたり数秒で終了します。
針を刺す方法には「平行法」と「交差法」があり、どちらの方法で行うかは検査実施施設により異なります。
検査終了後
針を刺したところを5~15分ほど指で押さえていただき、止血を確認した後、帰宅となります。
抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の場合は、検査の数日前から休薬いただくか、針を刺した後に20分ほど指で押さえていただき、止血時間を長めにとります。
(針を刺したところを指で押さえていただく時間や抗凝固薬・抗血小板薬服用中の方への対応は、検査実施施設により異なります。)
検査に伴う合併症
検査後に次のような合併症を起こすことがあり、「痛み」や「血管迷走神経反射」以外の合併症は極めてまれです。
痛み
痛みは検査中に限られ、1回目よりも2回目に針を刺した時の方が痛みが強いことが多いです。
まれに、数日~10日ほど痛みが続くことがあります。
血管迷走神経反射
針を刺した後に血圧が下がって気分が悪くなったり、徐脈(脈が遅くなる)や失神を起こすことがあります。
検査時の過度な緊張によるものと考えられますが、0.45~1.28%の頻度で起こると報告されています。
頭を低く、下肢をやや高めにし、仰向けになって休んでいただくと、数分で回復します。
出血、血腫、皮下出血
穿刺した針が血管を損傷したり、検査後の圧迫止血が不十分であると、出血したり、血腫(血液のかたまり)ができることがあります。
出血が高度な場合は入院し、経過観察が必要となることがあります。
痛みを伴って首が腫れ、呼吸困難をきたす場合は、手術により血腫を除去します(過去の報告例は数例で、いずれも検査直後から2時間程度で発症しています)。
皮下出血(青あざ)の場合は、重篤になることはなく、1週間程度で皮下のあざは消失します。
急性一過性甲状腺腫大
針を刺した刺激により、急激に甲状腺が痛みを伴って腫れることがあり、発症頻度は0.13~0.15%と報告されています。
針を刺した直後から4時間以内に発症することが多く、1~20時間で自然軽快します。
痛みや腫れが強いときは、冷却や解熱鎮痛剤の服用、ステロイドの点滴注射が行われることがあります。
急性化膿性甲状腺炎
発症頻度は0.1%未満と極めてまれですが、針を穿刺した経路より、甲状腺腫瘍に細菌が入り込み、炎症、化膿を起こすことがあります。
甲状腺は血液の流れが豊富で、殺菌作用のあるヨウ素を含んでおり、感染症を起こすことはほとんどありません。
糖尿病、免疫不全、アトピー性皮膚炎などが細菌感染症のリスクとされています。
反回神経麻痺
針を刺した後に、声帯を動かす反回神経が麻痺を起こし、声がかれることがあり、発症頻度は0.036~0.85%と報告されています。
検査の翌日~2日目に起こり、2~6か月までには自然軽快します。
穿刺した針が直接神経を損傷するのではなく、穿刺に伴う血腫や炎症が神経の圧迫や伸展を引き起こすことが原因と考えられています。
穿刺経路再発
針を腫瘍に刺した後、針を抜く経路で針先から癌細胞がこぼれ、皮膚や皮下脂肪、筋肉に癌が再発することがあります。
頻度は穿刺5年後で0.15%、10年後で0.37%と報告されており、再発病変の局所切除が行われます。
検査結果について
細胞診では診断が難しい腫瘍もあるため、本検査の正確さはおおむね85~95%とされています(検査実施施設による違いがあります)。
細胞診で良性と判断されても悪性の腫瘍細胞が潜んでいる場合もありますし、細胞診で悪性が疑われ、手術後に良性と診断されることもあります。
また、濾胞腺腫(良性)と濾胞癌(悪性)の見分けは難しく、必ずしもわかるものではありません。
したがって、細胞診で良性と診断されても定期的に受診し、超音波検査で腫瘍の大きさや形の変化などを調べることが必要です。