TSH(甲状腺刺激ホルモン)は脳下垂体から分泌されますが、この下垂体にできた腫瘍からTSHが過剰に分泌された状態です。
「下垂体TSH産生腫瘍」は、下垂体腫瘍の0.5~3%を占め、発生率は100万人に1人程度とまれです。
20~25%は成長ホルモンやプロラクチンなど、他の下垂体ホルモンも過剰に分泌します。
腫瘍ができる原因はほとんど判っていませんが、多発性内分泌腫瘍症(複数のホルモンを作る臓器に腫瘍が発生する病気)の一部であることがあり、その多くは遺伝子異常が認められます。
症状
過量のTSHにより甲状腺が強く刺激され、甲状腺が大きくなり、甲状腺ホルモンの分泌量が増え、「動悸がする、脈が速くなる、汗かきになる、体重が減る」などの症状がみられることがあります。
下垂体腫瘍が大きくなると、視野の一部が欠けたり、頭痛を生じる場合があります。
検査と診断
通常であれば、血液中の甲状腺ホルモンが増えると、脳下垂体におけるTSHの分泌量が減ります(ネガティブフィードバック機構)。
一方、下垂体TSH産生腫瘍では、血液中の甲状腺ホルモンが増えても、腫瘍がTSHを作り続けるので、下垂体のTSH分泌量が減ることはありません。
したがって、血液検査では「甲状腺ホルモンが高値にもかかわらず、TSH は正常値~軽度高値」を示します。
この状態を「不適切TSH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of TSH:SITSH)」といいます。
甲状腺ホルモン不応症もSITSHをきたすため、甲状腺ホルモン受容体の遺伝子検査により鑑別診断を行うことがあります。
頭部MRI検査では下垂体に腫瘍を認めます。
治療
手術によって下垂体の腫瘍を摘出します。
摘出した下垂体腫瘍の組織検査ではTSH産生細胞を認めます。
手術で完全に取り切れなかった腫瘍に対しては、放射線治療(ガンマナイフ)やソマトスタチンアナログ製剤などによる薬物療法が行われます。
ソマトスタチンアナログ製剤(商品名:ソマチュリン)は4週間毎に深部皮下注射を行います。
腫瘍縮小効果を期待して手術の前に使用されることもあります。