甲状腺ホルモン検査(甲状腺機能検査)
FT4・FT3
甲状腺ホルモンには、「T4(サイロキシン)」「T3(トリヨードサイロニン)」「rT3(リバーストリヨードサイロニン)」の3種類があり、甲状腺から分泌されるホルモンのほとんどがT4で、身体のいろいろな臓器でT3に変化することは「甲状腺ホルモンの種類」の項で述べました。
つまり、「甲状腺がどのくらいホルモンを作って(産生)、分泌しているか」を調べるにはT4を測定し、「甲状腺ホルモンがどのくらい全身の臓器に働いているか」を調べるにはT3を測定します。
T4とT3のほとんどはタンパク質とくっついて血液中を循環していますが、一部がタンパク質から離れて(遊離して)存在しています。
これを、「FT4(Free T4、遊離サイロキシン)」「FT3(Free T3、遊離トリヨードサイロニン)」といいます。
甲状腺ホルモンはタンパク質とくっついた状態では臓器の中に入ることができないため、タンパク質から離れる必要があるのです。
各臓器の細胞の中に入り、甲状腺のホルモンとして作用しているのはFT4とFT3であり、血液検査ではこの2つを測定します。
FT4やFT3が正常値より高ければ「甲状腺中毒症・甲状腺機能亢進症」、低ければ「甲状腺機能低下症」と診断されます。
TSH
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は脳の下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの産生と分泌を促します。
脳の視床下部や下垂体は血液中の甲状腺ホルモンの量をモニタリングしていて、血液中の甲状腺ホルモン(FT4、FT3)が増えすぎると、下垂体からのTSHの分泌は減り、甲状腺ホルモンを作らないようにします(甲状腺中毒症・甲状腺機能亢進症)。
逆に、甲状腺ホルモンが不足すると、TSHの分泌は増えて、甲状腺ホルモンを作るように促します(甲状腺機能低下症)。
たとえFT3やFT4が基準値範囲内であったとしても、その人にとって多すぎるとTSHの分泌は減り(潜在性甲状腺中毒症・潜在性甲状腺機能亢進症)、足りないとTSHの分泌は増えます(潜在性甲状腺機能低下症)。
特殊な状態を除き、甲状腺中毒症・機能亢進症や機能低下症といった甲状腺の状態はTSHのみで判断することができます。
健診や人間ドック、新生児マススクリーニング検査などでは、TSHだけを調べて甲状腺の病気をスクリーニングすることがあります。
サイログロブリン(略称:Tg)
サイログロブリンとは甲状腺で作られるタンパク質で、甲状腺の中に貯蔵されていて、甲状腺ホルモンを作る場になっています。
サイログロブリンも甲状腺ホルモンと同様に、脳下垂体から分泌されたTSH(甲状腺刺激ホルモン)の刺激により甲状腺で作られますが、通常は血液中にわずかしか出ていきません。
血液中のサイログロブリンが増加するとき
血液中のサイログロブリンは、以下のような状態で異常に増加します。
①甲状腺の腫瘍がサイログロブリンを過剰に作るとき
②甲状腺が過剰に刺激され、サイログロブリンが過剰に作られたとき
- バセドウ病(TSHレセプター抗体 [TRAb])が甲状腺を過剰に刺激するとき)
- 甲状腺機能低下症(脳下垂体からTSHが多く分泌されたとき)
③甲状腺の組織が破壊され、サイログロブリンが血液中へ大量に流出したとき
また、甲状腺癌(乳頭癌、濾胞癌)で甲状腺を全て摘出した場合、再発や転移のマーカーとしてサイログロブリンを測定します。
甲状腺を全て摘出し、しかるべき処置を行った後、血液中のサイログロブリン値は検出感度以下になりますが、経過中にサイログロブリン値が上昇するようであれば、癌の再発や転移を疑います。
再発・転移した癌細胞でサイログロブリンが作られるからです。
後で述べるサイログロブリンに対する抗体(抗サイログロブリン抗体)が血液中にあれば、測定上の問題でサイログロブリンが本当の値より低めに測定されます。
したがって、サイログロブリンを測定する場合は、抗サイログロブリン抗体を測定し、抗体がないことを確認しておく必要があります。
自己抗体検査
自己抗体とは、自分のからだの成分に対する抗体のことです。
本来、抗体はからだに侵入した異物(細菌やウイルスなど)を攻撃したり、からだの外に排除する役割がありますが、何らかの原因によって免疫の異常が起こると、自分のからだの成分に対する抗体が作られ、さまざまな変化が出るようになります。
抗サイログロブリン抗体(略称:TgAb)
抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(略称:TPOAb)
抗サイログロブリン抗体(TgAb)は、甲状腺で作られる「サイログロブリン」というタンパク質に対する抗体です。
抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)は、甲状腺ホルモンを作る「甲状腺ペルオキシダーゼ」という酵素に対する抗体です。
これら2つの抗体は、橋本病(慢性甲状腺炎)の診断に用いられますが、バセドウ病でもみられます。
TgAbとTPOAbのいずれかの数値が高ければ、橋本病があると考えられます。
ただし、抗体の数値が高いからといって必ずしも病気が進行しているわけではありません。
あくまで甲状腺に対して異常な免疫反応が起きているかどうかの目安でしかありません。
抗TSH受容体抗体(略称:TRAb)
甲状腺刺激抗体(略称:TSAb)
抗TSH受容体抗体(TRAb)は、甲状腺の細胞の表面にある「TSH受容体」に対する抗体で、バセドウ病を引き起こします。
本来であれば、脳下垂体から分泌されたTSH(甲状腺刺激ホルモン)が甲状腺の「TSH受容体」にくっつき、甲状腺を刺激することで、甲状腺ホルモンが作られ分泌されるようになります。
バセドウ病では、TSHのかわりにTRAbが「TSH受容体」にくっつき、甲状腺を刺激し続けて甲状腺ホルモンが過剰に作られるようになります。
治療により病気の勢いが弱まるとTRAbは少なくなり、再発して病気の勢いが強まるとTRAbは増えます。
厳密にいえば、TRAbには「甲状腺を刺激する抗体(TSAb)」「甲状腺の働きを阻害する抗体」「刺激も阻害もしない抗体」があります。
TRAbがどれくらい甲状腺を刺激するかを調べるために、TSAbを測定することがあります。